第四章 トラブル 4.

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「大したことなくて良かったです。僕が気づけばよかったんです」  今思えば、饒舌すぎるのが怪しかったのかもしれない。 「普段の様子からはわからないのよ。穏やかで優しそうなのに、スイッチが入るとキレて手がつけられなくなるの」  カレンは辛そうに言う。 「これで、子供に優しければ我慢もしたけど、最後は子供にも手を出し始めて……」  もう駄目だと思って、実家に戻り、弁護士を立てて離婚したのだそうだ。 「カレンは俺が送ってくから、お前はもう帰っていいよ。帰って顔を冷やして休んでくれ」  多田はそう言うとポケットに手を入れた。朝陽にも金を渡そうと思ったのだろう。 「やめて下さい。僕と多田さんの仲じゃないですか」  そう言って朝陽が止めると、多田は「そうか。すまん。この穴埋めは必ずするからな」と素直に従った。  朝陽は、二人に別れを告げて、家に戻った。 「こんにちは」  玄関で引き戸が開く音がし、知沙の声がした。  朝陽はベッドサイドのスマホを見る。もう昼近くになっていた。  今日、母は仕事が休みのはずだったが、同僚に頼まれて珍しく昼からの出勤になっていた。もう出かけているはずだ。
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