第一章 雪山の夜 2.

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 それから暖かい囲炉裏を囲んで、ふうふう言いながらはっと汁を食べた。  父は食事をしながら、はっと汁――すいとんのことを朝陽の住む地域ではそう呼んでいた――は、父の生まれた海沿いの町ではひっつみ汁と呼ぶことを教えてくれた。  また『はっと』の名前は、昔、米が食べられず小麦粉を代用していたお百姓が、工夫して美味しい団子汁を調理し、それがあまりに美味しかったものだから、お殿様が小麦作りばかりに励んで稲作を疎かにしては困ると、その料理を禁止(ご法度(はっと))にしたのが由来だ――そんな話を父は語って聞かせてくれた。  それ以来、朝陽ははっと汁を食べると、あの囲炉裏を囲んだ父との最後の夜を思い出さずにはいられなかった。  夜更かしをする気満々の朝陽だったが、昼間の疲れもあって囲炉裏端でうとうとしはじめた。 「もう今夜は寝て、明日の朝早起きして、もう一回スキーをしよう」  そう言われて、素直に朝陽はふかふかの布団に入った。  山の家の押し入れには、ふかふかの布団がたくさん用意されていた。母が町内の子供会で役員をしていて、夏休みなどには山の家で子供達のお泊り会を開いたりしていたからだ。  囲炉裏の火がちろちろと燃える音をBGMに、父が囲炉裏の反対側に敷いた布団に寝転び静かに読書をする姿を眺めていたら、朝陽はいつの間にかぐっすり眠っていた。  
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