第四章 トラブル 4.

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朝陽は起きて、玄関に向かう。殴られた痕を見られないように、左頬に手を当てた。    知沙が立っていた。ピンクベージュの涼しげなノースリーブワンピースを着て、髪の毛はお団子にし、おくれ毛が妙に色っぽかった。 「おばさんはいる?」   「お袋は今日昼から仕事になった」 「そうか、じゃあ夕方また来る。あれ? 朝陽、どうしたの? その顔」  知沙は朝陽の殴られた顔に気づいたようだ。 「ちょっとね」 「ちょっとねって、なに?」 「職場の休憩時間に同僚同士で殴り合いになって、止めようとしたら腕が当たったんだ」  母にも同じ言い訳をしたが、知沙が信じてないのは明らかだった。 「冷やした方がいいよ」 「保冷剤で冷やしてた」 「氷嚢がうちにあるよ。持ってきてあげようか? それに切れて血が滲んでるよ」 「いいよ、大丈夫だよ」 「大丈夫じゃないよ。ちょっと上がらせて」  知沙は朝陽の返事を待たずに、勝手にサンダルを脱いで家に上がってきた。
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