第四章 トラブル 6.

2/2
前へ
/100ページ
次へ
 男なんてみんなそんなもんだ。父だけが特別悪いわけじゃない。  もしかしたら、朝陽はそれを確認したくて、毎晩、毎晩、女の子を送っていくのかもしれない……。  窓からは知沙の家が見える。二階の知沙の部屋だけカーテンの隙間から灯りが漏れていて、ほかは真っ暗だ。  母親が入院して、あんな広い家に一人きりでいる知沙はどんなにか心細いだろう。先日の潤んだ瞳を想い出す。  父は死に、もうすぐ真知子も死んでしまう。二人の間に何かあったとしても、誰も知らないはずだ。朝陽の母親でさえ疑っていないのだから……。  だったら、自分も何も知らないふりをして、男として知沙を愛したい……。一生そばにいて守ってやると伝えたい……。それが朝陽の本心だった。  けれどもそんな朝陽を思いとどまらせる疑惑があった。それが、今夜母の話を聞いてさらに強まった。  もし、結婚前の父と真知子に関係があり、そして結婚後にこの町で二人が再会したとしたら……。  嫉妬深く、束縛が強かったという歳上の夫に辟易した真知子が、昔の恋人に心を寄せ、それに父が応えたということはないだろうか?  だとしたら、知沙の父親は……? 知沙の父親は本当に剛なのだろうか? 自分と知沙が異母兄妹ということはないのだろうか?  朝陽はその疑念がどうしても(ぬぐ)えなかった。
/100ページ

最初のコメントを投稿しよう!

32人が本棚に入れています
本棚に追加