第五章 見合い 1.

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 約束の時間に朝陽は車で『ラ・フェスタ』に向かった。多田と一緒で酒を飲まないことはないとは思っていたが、店は歩きでは無理な場所にあったので、帰りは代行でも頼むつもりだった。  服装については多田に言われていたので、朝陽は白のTシャツに教員時代の紺の麻のジャケットを羽織り、チノパンという格好にした。靴はスニーカーだがいいだろう。  店は駅の近くにある結婚式場に併設されたレストランだ。  結婚式場と共用の駐車場に車を停めると、結婚式場の手前に地中海風というのか、ベージュの漆喰の壁にオレンジの瓦屋根の、いかにも女性が好みそうな建物があった。知沙を連れてきたら、大喜びするだろう……。そんなことが一瞬頭に浮かんだ朝陽だったが、それを振り払う。  アーチ型のポーチから店内に入ると、トルコブルーの壁が目を惹き、大きなバーカウンターを通った先の広いホールに配置されたテーブルは8割方埋まっていて賑やかだった。 「おお、朝陽、こっちだこっち!」  場にそぐわない多田の大声で呼ばれた方を向くと、窓際の四人掛けの席に多田と見知らぬ若い女性が座っていた。
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