第五章 見合い 2.

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第五章 見合い 2.

 多田は立ち上がって女性の前の席を朝陽に譲り、その横に座ると口を開いた。 「こちら、玉田(たまだ)美久(みく)ちゃん、覚えてないか?」    そう言われたが、朝陽には記憶がなかった。  OL風の、綺麗な女の子だった。袖に透け感があるバルーンスリーブの白いブラウスに紺色のフレアスカート、肩までの長さの髪は緩くパーマがかかっていた。 「え……いや……」  朝陽が困っていると、美久自身が助け舟を出す。 「高校時代、小野寺先輩の密かなファンだったんです。バレンタインデーにチョコもあげましたよ。でも、先輩モテモテだったから、覚えてなくて当然です」  そう言うとにっこり笑う。  多田が言うには、美久は多田の同級生の妹で、朝陽の2学年下だった。  そういえば3年の夏のバスケの引退試合に、2学年下の女の子達が何人も応援に来てくれたのを朝陽は思い出した。学校で2学年下となると、実年齢よりももっと離れている感覚で、ひとりひとりの顔ははっきり思い出せないが、言われてみたらその中に美久がいたような気がした。 「思い出したよ。バスケの試合に来てくれてたね」  そう答えると、美久は嬉しそうに肯いた。  
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