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第一章 雪山の夜 3.
夜半、朝陽はふと何かの気配を感じて目が覚めた。隙間風なのか、冷たい風が入ってきたような気がした。
一瞬、自宅の子供部屋のベッドの上かと思ったが、布団から飛び出した足の冷たさに、ここが山の家であることを思い出した。
父が消したのか、あるいは勝手に消えたのか、囲炉裏の火は消えていたが、雨戸のない台所側の窓の雪明りで部屋の中が薄っすらと見えた。
父の様子をうかがおうとした朝陽は、一瞬で凍り付いた。
父が仰向けに眠っているその体の上に、白い服を着た女が覆いかぶさっていた。女は自分の口で、父の口を塞いでおり、その白い横顔が美しくも恐ろしく見えて朝陽は息を呑んだ。
「雪女だ」
朝陽は心の中でつぶやいた。
いや、無意識に声が出てしまっていたのかもしれない。
山の家に来る前、午前中に町内で開かれた子供会で、雪女の紙芝居を見たばかりだった。その雪女の横顔にそっくりに見えたのだ。
朝陽の気配に、あるいは声に気づいたのだろうか。白い女は、ゆっくりと朝陽の方に顔を向けた。そして、口を開いた。
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