第五章 見合い 3.

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第五章 見合い 3.

「先輩? どうしたんですか?」 「あ、うん」  朝陽は慌てて美久の方に視線を戻した。 「お知り合いですか?」  二人の横を通って奥へ進む知沙たちを美久が見る。 「いや……」  朝陽は言葉を濁すしかなかった。    この町で見合い相手と食事に行くとしたら、もっと改まった席なら老舗の料亭が1軒あったが、若い女性が喜びそうな洒落た店はここくらいしかなかった。  朝陽は自分の迂闊さに呆れた。  知沙は母が入院中で付き添いもいないのだから、見合いはそこまで堅苦しいものではなかったのだろう。ここで鉢合わせする可能性は十分考えられた。  知沙はサーモンピンクのワンピースを着ていた。ティアードになった袖以外はシンプルで、華奢な知沙にとてもよく似合っていた。  男の方は30代初めくらいか、がっしりしてよく日に焼けたハンサムな男だった。自信に満ち溢れていて、どう足掻いても朝陽では太刀打ちできない感じがした。  予約をしていたようで、知沙たちは朝陽より奥の、やはり窓際の席に案内された。見合い相手の背中で朝陽からは知沙の様子はあまり見えなかった。知沙からも同じだろう。 「先輩、聞いてました?」 「ごめん……」  さすがに美久に失礼だ。朝陽は美久に集中しようとした。
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