第五章 見合い 3.

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   それから1時間ほどして店を出た朝陽は、美久を車に案内した。 「ご馳走様でした。楽しかったです」  美久を助手席に乗せてから、自分も運転席に乗り込むと美久が言う。 「こちらこそ」と答えてから、「家はどこだっけ?」と尋ねる。 「高速の方です」  そう言われて、朝陽は車を発進させる。  しばらく走ってから、高速の下をくぐる手前で、「あ、そこ、左です」と美久が言う。  しかし……。朝陽はウィンカーを出して、車を路肩に停める。国道に並行して走る県道なので、夜通る車はほとんどなかった。 「左に行っても、何もないよね?」  唯一あるのは朝陽にとっては職場みたいな、この町唯一のラブホテルで、その先は行き止まりだった。 「えっと……」  美久はとぼけていたが、やがて真剣な顔をして朝日を見る。 「ホテルがあります。朝まで先輩といたいです」 「いや、それは……」  まさか、女性からホテルに誘われるとは思わなかった。  いろいろな意味でそれは困る。  まず、受付のおばさんにバレるだろう。事務所の女の子やドライバーに会うかもしれない。そして、何より朝陽にはその気がなかった。 「ごめん。それはできない」 「それは、会ったばかりだからですか?」  美久が食い下がる。 「いや、違う」  朝陽は正直に答えた。 「これからも美久ちゃんは可愛い後輩としか思えないと思う」 「わかりました」  美久はそう言うと、自宅の住所を告げた。
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