第五章 見合い 4.

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第五章 見合い 4.

 美久を送って家に戻ると、星灯りの下、伊藤家の前に知沙が立っているのが見えた。さっきのサーモンピンクのワンピースのままだ。見合い相手に送られて帰ってきたばかりなのだろう。  朝陽が知沙の前で車を停めて窓を開けると、知沙が近づいてきて言った。 「朝陽、遅い! 私より先にお店出たのに、どこで何してたの?」 「遠くまで送って行ったからさ」と答える。 「誰、あの人? 彼女?」 「どうだった? 見合い」  二人同時に言葉が出た。 「よさそうな人だったじゃないか」 「可愛い人だったね」  また同時だった。 「うまくいくといいね!」  知沙に言われ、否定はしなかった。 「知沙もな、頑張れ」  そう朝陽が言うと、「言われなくても玉の輿狙って頑張るよーー! おやすみ!」と元気に言って、知沙は玄関に向かって歩いて行った。  家の扉が開くと、待ち構えていたように愛犬の太陽のワンワンという元気な鳴き声がした。ドアが閉まるまで見守って、朝陽は車を自分の家の敷地に入れた。  次の日、夜、事務所に顔を出すと、多田が待ち構えていた。 「お前、美久ちゃん、ダメだったか……。朝陽先輩、気が利かないし、思ってたのと違うのでもういいですって、連絡がきたぞ」 「はは……。折角、紹介してもらったのに、すみません」  頭を掻きながら謝る。
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