第六章 焦燥 1.

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 朝陽は一度教員を辞めているので、また県の正規教員に戻るには、教員採用試験を受け直さなければならなかった。 「私は前途有望な青年を駄目にしてしまったことを後悔している」 「先生、それは……」  高橋は新任の朝陽が3年で教師を辞めたことを自分の責任と感じていたのだと、朝陽はそこで初めて知った。 「先生、違います。それは違うんです」  真実を話すことは躊躇われた。しかし……。  朝陽の(かせ)となっている疑念を、父の友人だったこの人なら取り払ってくれるのではないかというほのかな希望があった。けれどもその一方で、父の名誉に関わる話でもあり、軽はずみに他人にするものではないという思いもあり迷っていた。  高橋は朝陽の表情から、そんな逡巡を見て取ったのかもしれない。 「教員を辞めた理由は、君のお父さんと真知子先生のことかい?」  高橋がずばりと言った。 「えっ……」   朝陽は声を挙げた。
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