第六章 焦燥 2.

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「それはな、あいつが紘子さんを心の底から愛していたのを知っているからだ。見合いで初めて会った時、一目惚れしたと白状していた。あいつは私の親友だ。その言葉に嘘がないのは私が一番知っている。そしてあいつは、愛する妻がいながら、他の女性に目を向けることは絶対しない」  真っ直ぐ朝陽を見つめる高橋のストレートな言葉が胸に響いた。  雪山でのことがなければ、素直に信じられただろう。あの夜の記憶がそれを邪魔する。しかしさすがの朝陽も、雪山の夜に見たことを高橋に話すのは躊躇(ためら)われた。   「私が言えるのはここまでだ。期限付の話はよく考えて、それから返事をしてくれたらいい」  最後に高橋はそう結んだ。そして、「さて、芋の子汁とご飯をもらおうか。お母さんが作った芋の子汁はうまいんだよな」と笑った。  1時間ほどして、少し酔って赤い顔をした高橋は、何度も母に礼を言い、楽しかったと言ってタクシーで帰って行った。
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