第六章 焦燥 3.

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第六章 焦燥 3.

 高橋が帰ったあと、朝陽は片付けを手伝ってから自分の部屋に戻った。 ――学校に戻る気はないか?―― ――育休補助で期限付教員を探しているーー  高橋の提案は思いがけないものだった。  一度は教師の仕事に対し燃え尽きたようになった自分が、また教員に戻る……。考えてもみなかった。  ふと、教員時代の教え子のひとりを思い出した。  当時、朝陽は小学三年生のクラスを受け持っていた。  そのクラスに、洗濯されていない薄汚れた同じ洋服を毎日着て、靴下も右と左が違っていて、朝食さえ満足に食べさせてもらえずに学校に登校してくる生徒がいた。  片親で、母親が夜の仕事をしていると聞いていた。なんとかきちんとしてもらえないかと、何度も家に電話したり、家庭訪問をしたりしていたが、改善される様子はなかった。  今なら……。多分、今の朝陽ならもう少し違うアプローチができたのではないかと思う。と言っても具体策があるわけではないが……。  あの時の朝陽には、子供への同情心と子供の養育を満足にできない母親への怒りしかなかった。
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