第六章 焦燥 3.

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 けれども今なら、このバイトでいろんな事情を抱えて社会の片隅で精一杯生きようとする人間を見てきた今なら、もっと粘り強く、根気よく関わっていける気がしていた。  朝陽は自分の中に、教職への情熱がまだ残っていることに気づき驚いていた。  窓から見える知沙の家は、いつものように二階の知沙の部屋だけ灯りが点いていた。  高橋の言葉が蘇った。 ――結婚前、小野寺がうちの市にいた時、真知子先生と仲良くしていたのは事実だ。けれども、君のお母さんと結婚したあと二人には何もなかった。それは私が保証する――  それが事実なら、どんなにかいいのに……。しかし、それならあの雪女は……。あれは確かに真知子だった。  高橋が帰ったあと、台所で皿洗いをする母を手伝い、皿を拭いているときに母が言っていた言葉を思いだす。 「知沙ちゃんのお見合い相手、県会議員の青山辰之助さんの甥御さんなんですって。相手が知沙ちゃんを気に入ってすごく乗り気で、お付き合いすることになったみたいよ」  母は昼間、病院に真知子を見舞い、そこで聞いてきたらしい。 「知沙自身はどうなの?」  朝陽は思わず知沙の様子を聞く。
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