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第六章 大切な人 1.
次の日は8月最後の土曜日で、朝陽は出勤だった。
昨日、高橋を迎えるために同僚と休日を交換していた。午後8時からの仕事だったので、30分前に家を出る。
敷地に停めた車に乗り込む時に見た、知沙の家は真っ暗だった。見合い相手とのデートからまだ戻っていないのだろう。
その日は明日が日曜日というのもあり、店は繁盛していた。
朝陽は一番人気の寧々を乗せて市内のビジネスホテルとラブホテルに一往復したあと、今度はカレンを乗せて朝陽の地元の例のラブホテルへと向かった。時間は午後10時になるかという頃だった。
「そうだ、朝陽君にはお世話になったから、真っ先に報告するね」
行きの車の中で、カレンが嬉しそうに言った。
「私、徹ちゃんと結婚することになった。こんな年上の子持ちのおばさんなのにね、プロポーズしてくれたの」
「おめでとうございます! お似合いです。僕もすごく嬉しい」
「ありがとう。私一人娘でしょ。財産もなんにもない家なのに、徹ちゃん、うちに入ってくれるって」
婿養子に入り、母や祖父と一緒に住んでくれるのだという。
多田は三人兄弟の真ん中のはずだった。朝陽は多田の決断に温かい気持ちになる。
「店は卒業するわ。でも今更、専業主婦もあれでしょ? 今まで通り、夜は母が子供達を見てくれるから、事務所の近くにバーを開くことにしたの。徹ちゃんの夢だったみたい」
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