第六章 大切な人 1.

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 朝陽はホテルの先の行き止まりのところで車をUターンさせ、ホテルの駐車場出入口の少し後ろに車をつけた。窓を開けると、ライトを消しエンジンも切る。8月末の東北の夜は涼しかった。  月明かりの中で、昨日高橋が話していた期限付教員のことをスマホで調べ始めた。給与は正規の教員には劣るとはいえ手当なども付き、ボーナスも少額だが出るようだ。  ただし、担任を持つことになると、正規採用の教員試験を受けるための勉強時間がなかなか取れないというデメリットがあることもわかった。  夢中になって調べるうちに、念の為セットしていたスマホのタイマーでカレンのサービス終了時刻になったことに気づく。今日は50分のサービスだった。  朝陽は慌ててスマホを閉じると、車のエンジンをかけ、窓を閉めてクーラーを入れた。少し経つとカレンの姿がホテルの前に見えたので、車を発進させる。 「ありがとう」  カレンの前に車を横付けすると、カレンが乗り込んでくる。  車を発進させ、高架になっている高速道路に平行するように通る一本道を走り、県道にぶつかると右折した。  と、遠くに車のヘッドライトが見え、段々近づいて来た。スポーティーな左ハンドルの高級外車なのがわかった。  この辺じゃ珍しいなと思いながらすれ違う寸前、朝陽に近い側、助手席に座っている女性が目に入る。俯き加減だが、すぐにわかった。知沙だった……。
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