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第二章 送迎ドライバー 1.
「雪女なんて、ばからしい」
朝陽はつぶやいた。
大人になった今、父が雪女に殺されたなんてお伽話を朝陽は信じていない。
車のフロントガラスに、雪がひらひらと落ちては水滴になった。もう春も近い。この気温なら、積もることはないだろう。
朝陽は高速のインターが見える細い道に車を停めていた。
高架になった高速道路を行き交う長距離トラックのライトが遠くに見えるが、インターを通る車はなく、裏道の角にあるラブホテルの安っぽいネオンだけが光っていた。
七十分のコースだからそろそろ終わるころかと、母が作ってくれたおにぎりの夜食を食べ終えて、ホテルに車を近づけた。
時間通りに、ホテルの出入口から女が現れた。茶髪を巻毛にし、ぽっちゃりの体系を隠すように少し大きめのワンピースを着て、高めのヒールのサンダルを履いている。
女は車を確かめると、後部座席に乗り込んできた。
「お待たせ――」
「カレンさん、お疲れ様です」
朝陽は乗り込んだ女に声をかけ、車をスタートさせた。しばらく進むと、カレンと呼ばれた女が口を開いた。
「やっぱ、朝陽君の送迎はいいねえ。車が煙草臭くないし、運転上手だし、道も知ってるからね」
「ありがとうございます」
「いつまで経ってもその礼儀正しさがいいって、待機所でほかの女の子が言ってたわ。さすが、元小学校の先生よね」
「やめてくださいよ」
店長の多田が口を滑らせたのだろう。そのことは内緒と言う約束だった。
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