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第七章 大切な人 4.
カレンが降り、知沙と二人だけになった車は急に静かになった。
「朝陽、ありがとう」
知沙は恥ずかしいのか、前を向いたままだ。
「見合い、ぶち壊しちゃったな」
朝陽もヘッドライトが照らす道の先を見ながら答える。
「そうだよ。お母さんに花嫁衣装見せたかったのに……。責任取って、朝陽がもらってよ」
冗談の中に、知沙の本心が見え隠れしていた。
それからしばらく無言が続いた後、朝陽は口を開いた。
「僕にとって知沙は大切な人だ」
朝陽は初めて本心を口にする。
「えっ」
ストレートな言葉に、知沙が驚きの声を上げる。
「でも、今は何も約束できないんだ」
「どういうこと?」
「真知子おばさんと話したい」
「うちのお母さんと?」
なぜここで母の名が出てくるのかと、知沙は不思議そうだ。
「ああ」
「何を話すの?」
「今は言えない。でも、僕と知沙にとって、大切なことだ。これ以上は聞かず、お母さんの体調がいい時に話したいと、僕が言っているって伝えてくれないか?」
「わかったよ」
素直に知沙が応じた。
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