第七章 大切な人 5.

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 やがて階段を降りる音がして、知沙が部屋に入ってきた。さっきまで着ていた堅苦しいワンピースを脱ぎ、薄いピンク色のパイル地の半袖カットソーとハーフパンツの部屋着に着替えていた。手にはボードゲームを抱えている。 「へえ、取ってあったんだ」  朝陽はテーブルに置かれたゲームを見て懐かしくなる。どれも、朝陽が一緒に遊んだことがあるものだった。  二人は人生ゲームを取り出して、遊び出す。  昔から、性格の差か、ゲームの進め方に違いがあった。朝陽は博打は打たず淡々と進めていき、大きなチャンスを掴んだら一位でゴールする。幼稚園の頃の知沙はその逆であまり先のことは考えずに勢いで進んで、大きな賭けに負けて破滅するタイプ。  これは今でも変わりがないようで、真剣にボードとにらめっこする知沙の様子に朝陽は笑いを隠せなかった。  ゲームは朝陽優位のまま終わり、ゲームを変えることにする。 「じゃあ、次はこれ」  知沙が取り出したのは、オセロゲームだった。 「これなら朝陽に勝てるもん」  朝陽が黒、知沙が白で勝負は開始される。しかし、知沙が角を取るのにこだわるあまりミスをして、すぐに戦局は朝陽の優位になり、朝陽が勝つ。 「朝陽、強くなったね」  知沙が感心するように言う。 「え?」  朝陽はポカンとする。 「だって、昔はいつも私に負けてたじゃない? お父さんもお母さんも皆弱かったよね」  それを聞いた朝陽は、堪えきれずに吹き出す。
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