第二章 送迎ドライバー 1.

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「安心して。誰にも言ってないよ」  カレンは朝陽の心配を払拭するように言った。  朝陽がこの仕事をはじめて、もうすぐ一年になる。  『人妻倶楽部』と『制服倶楽部』という二つのデリヘルの送迎ドライバーをしていた。  二つの店の店長を兼ねる多田は、朝陽の高校時代のバスケ部の先輩だった。  多田は高校を出て地元の不動産会社に就職したはずが、すぐに退職して仕事を転々としたあと、風俗の世界に入り、デリヘルのオーナーから店長を任されるようになっていた。  いかつい顔に大きな体、茶色く染めた髪をオールバックにして、金のネックレスにアロハシャツがトレードマークだ。強面な感じだが、よく見れば愛嬌のある人懐っこい目をしていた。  そして意外と神経が細やかで気が利くので、風俗の女の子のマネージメントに向いていたらしい。今思えば、男子バスケ部でも選手でありながら、自ら買って出てマネージャーを兼任していた。  店は朝陽や多田が育った地元の町に隣接するJ市にあった。朝陽の家からなら、車で三十分ほどだ。  J市は この県の内陸南部では中核的な市で、この辺りでは珍しくシャッター商店街ではない商店街が今も残っていた。デリヘル店も何店舗かあって、市内だけでなく朝陽の地元など風俗がない周辺の町にも女の子を運んでいた。  この辺には娯楽が少ない上、広い土地を活かした工業団地などが多く東京や仙台からの出張者が多いので、思った以上に商売は繁盛しており、送迎ドライバーは常に不足しているらしい。
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