第七章 大切な人 5.

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「なんで? なんで笑うの?」  知沙は不思議そうだ。  知沙は幼い頃、負けず嫌いで負けると大泣きしていた。特にオセロゲームで負けると機嫌が悪くなり、そのあとご機嫌を取るのが大変だった。それで知沙の両親も朝陽も手を抜いて、知沙に勝利を譲っていたのだ。  それなのに今でも自分が強かったと信じている知沙がおかしくて、朝陽は涙を流して笑った。 「えーーっ、じゃあ皆、わざと負けてたの」 「だって、知沙、オセロ負けると泣くだろ。だからおじさん、おばさんと、オセロは知沙に勝たせるっていう暗黙のルールができてたんだよ」  納得いかないという顔の知沙がおかしくもあり、可愛くもあった。 「あの頃、私のお父さん、お母さんに意地悪だったの」  急に真顔になって千紗は言う。  知沙は当時の両親の様子を思い出したようだった。子供心に、知沙は父の母への態度を、“意地悪”と捉えていたようだ。 「でもね、朝陽が来ると二人が仲良くなって一緒に遊んでくれるから、朝陽が来るのが嬉しかったんだよ。そういえば……」  知沙は朝陽の顔を見る。 「そういえば、あの頃はお母さん、朝陽のこと、『あっくん、あっくん』って言ってすごく可愛がってたよね」  そして、何かに気づいたようだった。 「お母さん、変わっちゃったね? いつからか、朝陽と遊びに行くの、だめって言うようになった……」  咄嗟に朝陽は答えられない。
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