第七章 大切な人 6.

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 小さな頃、内弁慶だった知沙が朝陽の前でだけは甘えてわがままを言っていた。あの頃と変わらない、朝陽にだけは気を許せるという知沙に、朝陽は温かな気持ちになる。 「そんなカロリー高いの、こんな真夜中に食べると、確実に太るけどね」  そんな気持ちを隠すように、朝陽は知沙をからかった。  三時を過ぎて睡魔が押し寄せてきた二人は、昔一緒に見たアニメ映画を見た。子どもにしか見えない不思議な大きなお化けと姉妹の交流を描いた名作で、知沙の働く保育園の子供達にも人気だそうだ。  ソファに二人並んで座って見ているうちに知沙はとうとう寝落ちしてしまい、朝陽の肩に頭を預けて寝息を立てて眠ってしまった。その安心し切った顔が愛しく思えて、朝陽は知沙の肩に手を回して抱き寄せて上向きになった知沙の寝顔を見入っていた。思わず唇に唇を重ねようとしたが、寸前で止めた。  もし、知沙が腹違いの妹だったら……。自分と知沙が愛し合うことは、人の道に反することになる。  もし、それが事実とわかったなら、朝陽はこの町から、知沙の前から姿を消すつもりでいた。もうすぐ亡くなってしまう最愛の母の罪を、知沙には知られてはいけないと思っていた。
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