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「昨日は知沙を助けてくれたのね。ありがとう」
朝陽が真知子の前の椅子に座ると、まず真知子が口を開いた。
「仲人さんからは立派な見合い相手と聞いて安心していたのに、そんな人だったなんて……。朝陽君がいてくれて良かったわ。さっき、先方から断りがあったと仲人さんから連絡が入ったから、『二度目に会ってホテルに誘うような人はこちらからお断りです』って答えたわ」
それから真知子は朝陽の目を見て言った。
「知沙が午前中ここに来て昨日の話をしたあと、『お母さん、なんで朝陽じゃだめなの?』って私に言うの」
真知子は悲しげに微笑みながら言う。
知沙は、あの夏、朝陽の赴任先を訪ねた日から、朝陽が自分を避けるようになった気がするとも話していたという。
「雪女は真知子おばさんですか?」
朝陽は単刀直入に聞いた。
真知子は朝陽から目を逸らすことなく答えた。
「そう……。あの夜の雪女は私です」
答えはわかっていたのに、それでも本人が認めるのを見るのはつらかった。
父への尊敬の念が、ガラガラと崩れていく気がしていた。
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