第二章 送迎ドライバー 2.

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第二章 送迎ドライバー 2.

 この仕事に就いたのは、朝陽が教員を辞めて海辺の町から地元に戻って仕事を探していた時に、多田が声をかけてくれたのがきっかけだった。  求人サイトを見て、近くの工業団地にある工場の仕事や、地元の会社の営業の仕事に応募しても、なかなか採用に結びつかない。 「立派な大学出て先生やってたのに、なんで工場? すぐ辞めちゃうんじゃないの?」と言われることもあれば、「職歴が三年でしかも教師だけでしょ。即戦力で営業できるかな? 元先生がお客さんに頭下げられるの?」と言われることもあって不採用が続き、さすがに途方に暮れていた。    実家に戻った朝陽は母と二人暮らしだ。  祖父は亡くなり、母は畑で家庭菜園をしながら、遺族年金とグループホームでの介護のパートで暮らしている。そんな母に面倒をかけるわけにはいかなかった。 「朝陽、お前なら信頼できるからさ。この仕事、意外と信頼が大切なんだよ。次の仕事が決まるまででいいからさ。手伝ってくれよ、頼む」  そう多田に手を合わせられれば断る理由もなく、昼間の職が見つかるまでという約束で始めた仕事だった。  地元でこんな仕事をしているのがばれるのは困るが、事務所は隣の市にあったし、地元のホテルへの送迎があっても深夜だから知った顔に会う心配はなかった。
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