第八章 雪女の正体 3.

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第八章 雪女の正体 3.

 しかし、夫から逃げるのは簡単なことではなかった。  夫の目が常にあるので、知沙を連れて出るのは無理とあきらめた。まず自分ひとりで逃げ、離婚交渉して知沙を引き取ることを考えた。夫は身体が不自由なので、離婚さえできれば、育てられない知沙を手放すと考えてのことだった。 「でも、逃げるにしても私には自由になるお金がなかったの。それで、あなたのお父さんに相談したのよ」  夫と別れる決意を伝え、当座のお金を貸してほしいと頼んだという。けれども、夫の目がありなかなか二人で会うチャンスはない。そこで深夜、伊藤家を出たあと、まず山の家に寄りお金を借りて、その足で逃げるつもりだったのだという。 「その日だけは、いつもは止めていたお酒を許して、夫をぐっすり眠らせたの」    眠った夫を見て、一瞬だけ知沙を連れていくことも考えた。しかし実家は離婚を反対するに決まっていったし、弟が結婚して家族が増えていて頼ることは不可能だった。とりあえず昔の同僚を頼り、すぐに住む場所と仕事を探すつもりでいたので、知沙が一緒では難しかった。
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