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父は母や朝陽を裏切っていたわけではなかった。父はやはり思っていた通りの人だった。朝陽が慕った、家族を愛し教職に誇りを持つ父だった。その事実を前に、朝陽はすべてが洗い清められていくような感覚を覚えた。
「あなたが雪女だったことは忘れます」
朝陽はきっぱりと真知子に告げる。
「朝陽君……」
朝陽は真知子を真っ直ぐに見た。
「僕は知沙が好きです。一生守りたいと思っています。だから、知沙と結婚するのを認めてください」
「知沙が朝陽君を慕っているのはわかっていました。一人遺される知沙を、朝陽君と紘子さんに委ねられたらどんなに安心かもわかっていました。でも、今まで、私の罪のせいでそうできなかった……」
それから、真知子は朝陽の目をしっかりと見つめ返した。
「朝陽君、どうか知沙をお願いします」
真知子は頭を下げた。
「はい。知沙は僕が一生大切にします」
顔を上げた真知子の顔からは強張りが取れ、どこかほっとしたような表情に変わっていた。
「ありがとう……。あっくん」
朝陽は真知子の病室を出てナースステーションの方へ歩いた。
ナースステーションの向かい側には広い談話室があり、いくつもソファセットが置かれていた。
何人かの人が座って談笑している横で、ソファに一人座り心配そうな顔をした知沙がいた。
知沙は朝陽に気づくと、はっとして立ち上がる。
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