最終章 白く溶けて 

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最終章 白く溶けて 

 山々の紅葉が深まる頃、朝陽と知沙は結婚した。  真知子のたっての希望で白無垢の花嫁衣装を着た知沙と、羽織袴姿の朝陽は氏神様に当たる神社で式を挙げた。真知子も参列でき、車椅子の彼女を緩和ケア病棟の看護師と朝陽の母が介助した。  双方のごく近い親戚、親しい友人が参列する少人数の式だったが、先に夫婦になっていた多田とカレンも出席してくれ、遠方から高橋も駆けつけてくれた。  白無垢姿の知沙を見た真知子の幸せそうな様子が、真知子の死後もずっと朝陽の心に残った。  真知子は式のあと病院に戻ったが、新郎新婦とその他の参列者は近くの料亭へ移動して、ささやかな披露宴が開かれた。  自分の隣に座る美しい知沙の姿に、朝陽は見惚れた。高橋がビール瓶を持ってきて、朝陽のグラスに注ぎながら、「お父さんも喜んでるね」と笑顔で肯いてくれた。  朝陽は10月から期限付教員として地元の小学校で働きだし、小学5年生のクラスを受け持って充実した日々を送っていた。勤務のかたわら勉強も続け、来年には県の教員採用試験を受験する予定だ。  朝陽は亡き父を想った。きっと、自分の遠回りをあの世から笑って見てくれていると思った。  
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