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新婚生活は知沙の家でスタートさせた。知沙は小野寺家にすぐ入るつもりでいたが、朝陽の母が「お隣なんだし、新婚時代は二人で過ごしなさい」と言って勧めてくれたのだ。
知沙も母も、毎日仕事帰りに真知子の病室を見舞っていた。朝陽も土日は知沙と顔を出すようにしていた。
病状が進み食欲も落ちて、真知子は痩せ衰えて、肌は透き通るように白くなっていた。
朝陽にすべてを話し、知沙の幸せな様子を見て安心したのだろう。心穏やかに死を受け入れようとしているのがわかった。
そろそろこの町に初雪が降るという頃、真知子は知沙、朝陽、そして朝陽の母に見守られ眠るようにあの世へ旅立った。
「あっくん、紘子さん、知沙をよろしくお願いします」
意識を失くす前、真知子は朝陽と母にそう頼み、二人はしっかりと肯いた。
「知沙、幸せにね……。お腹の赤ちゃんを大切に……」
真知子は知沙に言い、知沙は泣きながら真知子の手を握りしめて肯いた。
知沙のお腹に新しい命が宿っていることを母に伝えられたのが、知沙の最後の親孝行だった。
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