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第一章 雪山の夜 1.
父は雪女に殺された。
「そりゃ、ここは民話の世界みたいなド田舎だけどよ、さすがにそりゃないだろ」
酒の席で地元の仲間にでも口を滑らせたら、大笑いされるだけだ。
しかし、小野寺朝陽は小学一年生の時に父を亡くしてから大学に入学する頃まで、ずっとそう信じていた。
あれは、小学校が冬休みに入ってすぐのことだった。
朝陽とは別の小学校で教師をしていた父は、師走に入ると家に帰ってからも通知表の作成で多忙を極めていたが、終業式が終わりほっと一息ついたところだった。
その日は午後から、父と約束していた山スキーに連れて行ってもらうことになっていた。未整備のコースを滑るバックカントリースキーだ。
家から一番近いスキー場で幼稚園に入る頃から父にスキーを習い、そしてその日ついに山スキーデビューが許可されたのだ。朝陽にとっては誇らしい日だった。
といっても、祖父が持っている裏山の、父が自ら確かめて子供でも安全と認められた、昔は林道として使われていたルートがデビューの地だった。
祖父は昔、猟師の真似事なんかもしていて、山の中腹にはそのための宿泊用に作った小さな山小屋があり、家族は『山の家』と呼んでいた。
父子で山スキーを楽しんだ後は、そこに泊まって男二人で一夜を過ごすというわくわくするおまけまでついていたから、朝陽は前の晩から楽しみでなかなか寝付けないほどだった。
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