どうか時間をとめてください

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 職場での昼休憩。私はいつものように社員食堂にきて窓際の席を選び食堂のメニューではなく自分のお弁当を広げた。うちの社員食堂は別にここで注文したもの以外も食べてもいいシステムだ。コンビニで買ってきたものを食べてもいいし、デザートだけこの食堂で頼んでもいい。デザートと言ってもあるのはアイスとプリンと冷凍であろうチョコレートケーキだけだけど。  ざっと見渡せば百席はある社員食堂にはお昼時を少し過ぎているからかあまり人がいない。今は13時半。半分も埋まっていないどころか三分の一も埋まっていないこの状態が私には落ち着く。  この会社の事務仕事をしてもう六年になる。六年ということはもう中堅でだいぶ仕事には慣れているから12時に昼休憩に入ってもおかしくないけれど、人混みが苦手なのでわざとこの時間に休憩を取っている。もちろん仕事をわざと遅くしているわけではない。他の人の仕事や雑務を余計にして時間を過ごしている。  仕事はきちんとしなくてはならない。それは入社してからかわらない。そしてもう一つ変わらないことがある。  「今日も手作り弁当ですか」  「そうですよ。お疲れ様です。原川さん」  「お疲れ様です。今日も忙しかったっしょ。月末だから」  「そうですね。まぁ、そこそこ」  私の席の目の前に他部署で働いている原川が座った。私より五つ下の男の子でやさしくそしてフランクな性格からかいろんな部署の社員と仲がいい。以前掃除のパートのおばちゃんからお菓子をもらっているのを見たことがある。あまり人間関係が濃くないこの会社では珍しいことだった。  「原川は人たらしだからだれでも手なずけることができる」と原川の上司が言っていた。  とりわけイケメンでもないが清潔感がある雰囲気だし、スーツの着こなしもスマートでどこにでもあるようなデザインでも身に着けるとよく映える。髪は規定にしたがって短く切りそろえられ少し明るい茶色に染めているが派手ではない。話し上手といわれればそれまでだが原川の場合はただ「雰囲気がいい」としか言いようがない。 危害を加えることのなさそうな屈託のない笑顔は男女問わず惹きつけてしまう。  「原川さんは、肉うどん。おにぎりも食べるんですか?すごいですね」  原川はだいたい食堂のメニューを頼んでいる。一人暮らしの男の子なのだから必然的にそうなる。もしかしたらすべてのメニューをたべているかもしれない。  原川のもってきたトレーにはおそらく食堂のおばちゃんがサービスしてくれたのだろう規定の量より多い肉が盛られている肉うどんと、丁寧に海苔がまかれてお新香までついているおにぎりが二つのった皿がある。  炭水化物ばかり。そんな言葉は飲み込んだ。実に男の子らしいメニューだ。私は学生の時でもこんな感じでは頼まないだろう。  「そうです。そうそう、肉、サービスしてくれたんすよ。今日なにも食べてないからうれしくて」                
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