元子ちゃんとピアノのお稽古

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1枚の写真がある。 半袖の女の子がこっちを見ているカラー写真だ。 その子は日焼けしているようだ。 ベルルスコーニ首相が「オバマ大統領は日焼けしているようだ」というのに似ているが、 その子は黒人ではない。日本人女性だ。 でも、支那東北部にはこんな風に背の高いモデルさんがいる。 東洋系なだけかな? でもね、その写真は白黒の着色写真なんだ。 しかも、卒業アルバムの学級写真だ。 つまり、それは白黒集合写真でその子の部分を切り取って カラー着色したものなんだ。 その子の名前は元子。 うちの近所に住んでるんだ。 僕は彼女の写真っを切り抜き、 A4大にして、クリアファィルに挟んだ。 そこまでするぐらい、元子が好きなんだ。 彼女はピアノを弾いてたんだ。 曲は練習曲。 でもエリーゼのためには難しそうだ。 ブリュグミュラーの「アラベスク」ならいけるかな? 元子と同じくピアノ習ってる女の子は沢山いるのに 男では僕一人だ。 男がピアノ弾いて何が悪い? 一人しか弾いてないから弾き甲斐がない。 女の子に相談できない。 ああ、お先真っ暗化?? そこに隣のクラスに元子ちゃんがいるのに気付いた。 彼女は練習曲を弾きこなすほどピアノがうまかった。 顔は可愛かったし、弟子入りしようかな? 僕は直接言うのが恥ずかしいので 同じクラスの子に頼んで、紹介してもらう事にした。 「こちら、元子ちゃんよ。」 「僕は、六郎っていいます。よろしく」 「元子です。よろしく」 「元子ちゃん、ピアノ教えてほしいんですが?」 「ええ?私は習ってるだけよ。」 「いやあ、友達でピアノ弾いてる男の子っていないんだ。だからお願いしようと思って」 「困ったなあ。わたし教えられへんよ」 「じゃあ、元子ちゃんと六郎君の近所に田代会館があるから、そこでピアノおそっわったら。」 そうしよ、そうしよ。 ということで、僕は元子ちゃんにピアノ習おうと言う事になったんだ。 女の子と二人でピアノに向かうのって照れ臭かった。 でも逆に嬉しかった。 彼女は、まずピアノを弾くときは、生卵を軽く持ってる様な手の形にするのよ、 って教えてくれた。 え?生卵? 僕は早速家に帰って、鍵盤の上で生卵を持ってみた。 ものの見事にそれは潰れて、鍵盤に卵の中身が出てしまった。 これは大失敗だ。 元子「ハッハッハ、何も実際に生卵を握る必要はないわよ。軽く手を丸くすればいいの」 「バイエルの100番て難しいかな?」 「練習すれば行けるわよ。」 「僕ビートルズが弾きたいんだけど、、先生が『まだ早い』っていうんだよ。」 「ビートルズって何?」 「ほら、女の子がキャーっていうやつよ」 「フォーリーブス?」 「違うよ。ロックだよ」 「ロック?」 元子ちゃんも流石にビートルズは知らなかった。 でもビージーズなら知ってたかも。 彼女は譜面を取り出して、サラサラっと弾き出した。 曲は「アラベスク」 「うまいねえ。」 「先生とうまくいってないの」 「うーん、なんか面白くないんだ」 「ハノンとかやったらどう?」 「ハノン?聞いた事あるなあ」 彼女はハノンの譜面を示した。 「音階練習和音練習、を重点的にやるのよ。 そうしたら、ピアノがスムーズに弾けるわよ。」 「うぁーやってみよう。」 彼女は音階練習を弾いた。なるほどなあと思った。 それから1年経って、僕のピアノの腕も上がってきた。 元子ちゃんも前よりも上達した。 僕はビートルズを彼女に教えた。 彼女はショパンのワルツとか弾く程の腕前。 僕らは、近所の河原でよく喋った。 「六郎君は、将来何になるの?」 「うーーん、前は電車の運転手だったんだけど、今は飽きたね」 「ピアニストにはならないの?男性ピアニストってカッコいいじゃん!」 「もっと練習しなきゃだめさ」 「そうねえ。」 「元子ちゃんは何になるの?」 「まだ決めてない。ピアニストにもなりたいわ。」 そう言いながら、小道の小石を川に投げていた。 すると、自転車連れの友達数人が 「あ、アベックじゃ、アベックじゃのう」 って茶化してきた。 「あんなん相手せんときや」 ふと、元子ちゃんの横顔がすごく可愛かった。 そこで「キスしていい?」 って訊いたら、頷いたのでその通りにした。 それから、小学校が終わると、別々の中学校に通わな刈ればならなくなった。 「さよならは言わないよ。近所に住んでるんだからね。これからもピアノ頑張ろう」 お互いそう言い残して、二人は別の中学校に通った。 そうこうするうちに、僕は中学校で不良化(実際は不良ではないと義一さんの娘さんらが証言している)し、ピアノの名手だった元子は何故だか走らないが、武道の方に進んだ。 る時、彼女に電話すると「あんたなんかとは口もききたくない」と言って電話を切った。 でもショックもうけなかった。だってそれだけ離れてしまったから。 それから何年も何年もたって、元子は神戸三ノ宮の花電車の前でストリートピアノ弾いてる吾人がいるのに気付いた。曲はビートルズの「レットイットビー」 「うわあ、懐かしいなあ」彼女は立ち止まった。 そして演奏を聴いて気づいた。 「あれ、この演奏は、六郎君!」 見たらその通り、なんと僕がストリートピアノ弾いてたんだ。 演奏が終わって言葉を交わした。 「久し振り、まだピアノ弾いてるの?」 「うん、ジャズも弾いてたんだ。元子ちゃんは弾いてるの? 彼女は首をふった。 「ええ?勿体ない!あれだけ弾けたのに」 「そうよね」 「一緒に練習しない?」 「どこで?」 「例えばここ、ストリートピアノとか」 「でも全然弾いてないから何を弾こう」 「ショパンの練習曲10-3」 「あれ難しいやん。しかも題名が『別れの曲』 「いやあ、別れは出会いの元なのさ。」 こうして二人は音楽教室でピアノ連弾の練習を始めた。 この人が一番好きな人なんだ。
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