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テーブルに並べられた今夜のメニューは。
肉じゃが、コロッケ、ポテトサラダ、ジャーマンポテト、じゃがバター、ポトフ、フライドポテト、じゃがいものきんぴら等々。
主に芋をメインとした品々だ。
これは全て妹香の大好きな料理であり、幼い頃から、俺が作ってきたものだ。
「いただきまーす」
「ああ、しっかり食べろよ。おかわりも、まだまだ沢山あるからな」
「嬉しい~ お兄様の料理がこの世で一番大好きです」
「ふふ。俺もお前の笑顔が何よりも嬉しいぞ」
二人して見つめ合い、束の間の幸福を味わう。
ただ、俺たちを囲む黒い空気清浄機が、非常にうるさい……。
食事をしながらも、未だ妹香の放屁はとどまることを知らない。
「ぶっ、ぶっ……ぶぶぶ、ぶおおおお!」
その度に、空気清浄機がレッドアラームを発動。
爆音で強風を放つから、うるさいし、冷たい風が頬に当たる。
そして、加湿機能も同時に作動するため、リビングは真っ白だ。
視界が悪い中、晩飯を楽しむ。
そうだ、俺の自慢の妹だって、アイドルの前にひとりの人間だ。
妹香の弱点は、自制できない放屁だ。
しかも、好物は芋類のみ。
成長するに連れて、芸能活動に支障をきたすようになった。
だから、プライベートを守るため、このタワーマンションの最上階にした。
トップアイドルの剛田 妹香が、鼻がひん曲がるほどの悪臭を、可愛らしい小さな尻から連発するなんて……。
スクープされた日には、俺たちの今の生活は破綻するだろう。
俺と妹香の平和を脅かす存在は、排除しなければならない。
ファンだろうが、ストーカーだろうが、マスコミだろうが、一般人だろうが、全て排除する。
誰もこの幸せを壊す事は許されないのだ。
※
妹香の身体は、どんどん成長する。
つまり、その分、新陳代謝が激しくなり、放屁の回数も劇的に増えるということだ。
俺以外には、女性のマネージャーさんだけが、この事を把握している。
マネージャーさんがよく俺に電話をかけてくる。
『兄くん! 大変よ! 妹香ちゃんの“発作”が起きそうよ!』
「わかりました。今どこですか?」
『港でロケ中なの、今はロケバスに私と二人よ! もう出そうって泣いているわ!』
「俺に任せてください。秒で着きます」
地下の駐車場へ向かい、バイクに乗り込む。
夜の国道をフルスロットルで走らせ、港に到着。
ロケバスの中で妹香は、顔を真っ青にして、縮こまっていた。
それを見るや否や、俺は駆け寄り、抱きしめてあげる。
「妹香っ! お兄ちゃんが来たぞ、もういいぞ!」
「あ、お兄様……マネージャーさんは?」
「いない。二人きりだ」
そう言うと安堵からか、涙を流す。
「ぶおおおおお! ぶぅっ!」
車内は心なしか、黄色に染まった気がする。
他にも学園内でトラブルは多々ある。
俺と同じ高校に入学した理由は。
「少しでも二人きりでいたいから」
というのもあるが、それよりも……。
授業中、スマホのブザーが鳴る。
着信名は……妹香。
聞けば、発作が止まらないそうだ。
女子トイレの個室で出せるが、他の女子生徒に噂を流されそうで、怖いらしい。
俺はすぐに教室を飛び出る。
「おい! 剛田、授業中だぞ!」
担任の教師が注意してきたが、構わず廊下に向かう。
「すいません! 腹が痛いんでトイレです!」
そう言うと、妹香のいる下の階まで階段を駆け下りる。
この間も耳から受話器を離さない。
「今、どこだ?」
『お兄様……妹香は一階の廊下にいますわ……』
(くっ! この声、かなりきているな。急がねば!)
一階に降りると廊下で、一人座り込む妹香の姿が。
「妹香! もう出るんだろ!?」
「はい……持ちませんわ」
辺りを見回すと、近くにあったスチール制のロッカーが目に入る。
本来なら、掃除用具を入れる時に使うものだ。
俺は妹香の腕を引っ張って、狭いロッカーの中に二人して逃げ隠れる。
扉は閉めた、これなら誰からも見られない。
「いいぞ、妹香」
「ごめんなさい。お兄様……」
「ぶおおおおお! ぶーーーーっ! ぶりゅ、ぶふふっ……」
いつもより長くうるさく、そしてとても臭く感じた。
だが、これでアイドルである妹香の名声は保てた。
この大罪は俺が背負う。
妹香には教室へ戻るように促す。
俺は少し時間をずらして、扉を開けた。
もうその時には、チャイムが鳴っていて、休み時間だ。
たくさんの下級生たちが、俺を見て、鼻をつまむ。
「くっせ!」
「うえっ!」
「最低な奴」
こんな言葉、妹香の労働に比べれば、なんてことない。
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