言の葉の色

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言の葉の色

 俺には、生まれつき不思議な能力があった。 「し、白田くん! あの……好きです!」  人目につかない校舎裏。真っ赤な顔をして俺を見上げる女の子。そして、その女の子の頭の斜め上についたフキダシと、その中に書かれた『し、白田くん! あの……好きです!』というピンク色の文字。  あれ、この子誰だっけ。  そんな程度にしか、俺は相手のことを覚えていない。だから、返答もおのずとそういうものになってしまう。 「えっと……嬉しいけど、俺今カノジョとか作る気ないから……」  俺がそう返すと、俺の斜め上にもフキダシが現れる。その中に書かれた文字は俺が言った言葉と一言一句違わない。そして色は、白。  泣きながら立ち去る女の子を見送りながら、自分の能力に今日もため息が出る。  俺は、昔から人が言った言葉を漫画のようなフキダシで見ることができた。おかげで聞き間違いをしないから、その点ではとても助かっている。  困ることは二つ。一つは、会話が幾つも行き交う場所ではフキダシが渋滞してとても見づらいこと。自分の頭上が全てフキダシで埋まった時はさすがに驚いた。  そしてもう一つは、フキダシの中の文字につく色である。これは感情に基づく色で、怒っていたら赤、悲しかったら青、嬉しかったらオレンジ、楽しかったら黄色というように色分けがされている。さっきの場合、あの女の子は俺に対する好意が現れていたためピンク色の文字がだった。対して俺は、彼女に興味を全く持てず、無関心の白。  ずっと、そんなことの繰り返しだった。  昔から俺は他人に好意を寄せられることは多くあった。異性に好かれる外見をしているのだろうと、今までの告白された回数を振り返ってさすがに自覚している。しかし、俺自身は誰にも興味が持てなかった。だから、本気の想いに適当に答えるしかできない。ああ、俺はなんでこんなに淡白な人間なんだろう。
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