間に合った

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 買い物かごを手にぶらぶらと歩く。初めて来たスーパーだから、どこに何があるかをまず把握したい。  セルフレジのところに女性がいる。カートから商品を取り出してはバーコードリーダーにかざしている。  横を通ると、チラリとこちらを見た。  私はそのまま通り過ぎると、鍋の素を積み上げているコーナーに身を隠した。じっくりと手にとって見ているふりをしながら、もう一度、セルフレジの女性を見る。  商品をかざすのをやめ、カートを押し始めた。レジからレシートは出ていない。  髪の毛で隠したインカムで連絡する。 「四十代女性、グレーのカーディガンにスカート。カートを押して、出口に向かっています」 「了解」  私はカレー鍋の素を買い物かごに入れると、出口から見えないところに移動した。  このスーパーでの万引きの対処法は三種類。  一、今みたいに捕まえる。万引きを見つけるのは全員、捕まえるのは制服を着たガードマンの担当だ。  ニ、警備員がパトロールして、抑止力となる。これも男性ガードマンの役割だ。  三、そばにいて、万引きの邪魔をして、予防する。それが私の主な役割だ。  元はレジのパートだったんだけれど、怪しい客を見つけたことから、万引きGメンの仕事をするようになった。  私は記憶に残らないような平凡なおばさんなので、長時間、スーパーにいても怪しまれないらしい。  ただ、万引きGメンになったのは家族には内緒にして、時給の上がった分はへそくりにしている。  三時頃から、ポツポツと学生が現れ始めた。  これからが勝負だ。
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