間に合った

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 今日、この支店に来たのは学生の万引きが増えたからということだった。まわりに染まりやすい年頃だ。一人が万引きに成功すると、あっという間に増えてしまう。  まず、学生が集まるのは惣菜コーナーのコロッケ。八十円で大ぶりだから、コンビニより人気だ。ただ、さすがにこれを万引きする子はいない。  危険なのは文房具、プチプラコスメ、それから、お菓子だ。  今、文房具の前にいる女の子は怪しいかも知れない。おとなしそうな顔だが、変な緊張感が伝わってくる。  制服を見ると、息子と同じ学校だ。  鞄に柴犬のぬいぐるみのキーホルダーをぶら下げているので、柴ちゃんと呼ぶことにする。  私がゆっくり近づくと、その気配に柴ちゃんはパッと顔を上げると、助けを求めるかのように外を見た。その動作が犬っぽい。  ガラス越しに中を覗き込んでいる学生たちが見えた。ニヤニヤ笑って、こっちを見ている。  いじめか、度胸試しか。同級生の見ている前で万引きをしないといけないのだろう。  防がなきゃ。  私はインカムにささやいた。 「外の学生の掃除、頼みます」  店員が外に出て行き、ホースで水を流しながら、掃除を始めた。店員が徐々に学生がたむろしているところに進むと、じゃま者扱いに学生たちは離れていく。  柴ちゃんはそれに気づくと、慌てて、店を出て、仲間を追いかけて行った。  私はホッと息を吐いた。  今回は防げたが、柴ちゃんは大丈夫だろうか。私がいる時は防げるけれど、いない時に来たら、どうしようもない。このスーパーがやりづらいと思われて、他の店に行かれても防ぎようがない。  心配していたら、次の日も、また、柴ちゃんはやってきた。しかも、今度はもう一人の少女がついてきた。黒のカラコンの目をキラキラさせ、楽しそうだ。カラコンはいかにも仲良しというように柴ちゃんと深く腕を組んで、もたれかかったりしている。
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