間に合った

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 チョコレートのコーナーに来ると、すっと、カラコンは離れて、プチプラコスメのコーナーに移った。それでも、視線は柴ちゃんから離れない。  でも、わかる。見届け人じゃない。万引きする子の持つ独特の緊張感がある。カラコンは自分でやる気だ。  柴ちゃんの方はキョロキョロと落ち着きがない。まだ、経験がない感じにホッとする。  この挙動不審な態度に店員の注意がいく、その隙にカラコンは万引きするつもりなのかもしれない。いや、柴ちゃんが捕まった隙を狙っているのかも。  そんなことはさせない。私が柴ちゃんを守る。  私は誘いをかけることにした。 「チョコレートのコーナーに一名、お願いします」  インカムの連絡に制服のガードマンが来る。私は静かに移動し、カラコンの死角にまわる。  ガードマンには威圧感がある。柴ちゃんはますます挙動不審だ。  カラコンが鼻で笑った。慣れた手つきでリップを鷲掴みにすると、バッグに放り込む。さらにマスカラを掴んで放り込むと軽い足取りで外に向かう。  自動ドアが開き、外に足が出た時点で私はカラコンの手首を掴んだ。 「レジ、忘れてるよ」 「何だよ、ババア」  カラコンが振り解こうとする。 「突き飛ばしたら、傷害罪。それにカメラで撮ってるから逃げても無駄よ」  優しく言うと、カラコンの顔が歪んだ。 「とりあえず、事務所に行きましょう」  ふてくされた顔でカラコンは戻り始めた。 「おばさん、プロなの?」 「ええ」 「げ。うちの親と見た目変わんないのに」  私の動きに気づいたガードマンが来たので、カラコンを引き渡した。その姿を不安そうに柴ちゃんが見ている。  私が近づくと逃げようとして、それから、踏みとどまった。 「知り合い?」  柴ちゃんはぶんぶん首を振った。 「万引きしてたから、逮捕されるんじゃないかな」  これはただの脅しだ。このスーパーでは万引きを捕まえても一回目は説教だけ。警察を呼ぶのは二回目からだ。  脅しが効いたようで柴ちゃんは青くなっている。カラコンがいい見せしめになって、他の子たちもおとなしくなるだろう。この店にいる間に決着してよかった。  私は柴ちゃんに優しい声をかけられないのが残念だった。
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