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「……う、うん。きれいだね」
今のは私に向かって話しかけたのだろうか。そんなことを考えてしまい、少し反応が遅れた。
二人の周りに、誰もいないというのに。
久保田くんは軍手についた土をポンポンと払い、ズボンのポケットに押し込む。無骨で素朴な仕草だった。
(園芸が趣味なのかな。最近になって始めたのかも。それにしても、意外すぎる)
心の中で不思議に思うのを察してか、彼がちらりと私を見る。
「総務の土川さんに相談したんだ。屋上が殺風景だから、植物でも置いてみませんかって」
「えっ、そうだったの?」
ずばり答えた彼に驚き、私はひっくり返った声を出す。
総務の土川さんというのは、社内の整理整頓や環境改善に尽力するベテラン社員である。とっつきにくい印象の、厳しそうな人だ。
私の反応が可笑しかったのか、久保田くんは笑った。
「土川さんは賛成してくれたけど、『言いだしっぺが実行しろ』と、俺に命じた。というわけで、俺が毎日面倒を見てるってわけ。朝と夕方の水やりとかさ、結構手間が掛かるんだ」
「……」
笑うと、彼は童顔だった。
一年前と同じ、私がいいなと感じた、彼の少年っぽい表情。
でも、今さらドキドキするなんて、どういうわけだろう。
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