花と夢と久保田くん

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久保田くんが私を見ている。 何かを求めるような強い眼差しがまぶしくて、私は俯いた。彼の瞳をまともに見ることなく数か月を過ごした癖がついている。 「……久しぶりだな」 彼は視線を逸らし、小さく言った。返事を期待しない、独り言のようなつぶやき。 本当に、久しぶり。久しぶりすぎて、どうすればいいのかわからない。 「先行くぞー、久保田!」 同僚の声に、彼は軽く手を上げて応えた。 日陰ひとつないここは暑くて、まぶしすぎるのかもしれない。昼休みが終わらない内に、皆、ぞろぞろと去っていく。 私と久保田くんだけが屋上に残り、誰もいなくなってしまった。 こんな状況、さっきまでの私なら困惑するはずだ。それなのに、今はホッとしている。 もちろん少しは緊張するけれど、嫌な感じではない。我ながら不思議な現象だった。 「きれいだね、花」 久保田くんに、自然に話しかけていた。自分でもびっくりするくらいの、普段どおりの口調で。 彼が、ぱっとこちらを向くのがわかった。私は花を見てるから、その瞳を見ることはできないけれど。 「うん、よく咲いてる」 「……花を育ててるのが久保田くんだと知らなかった。私、いつもここに来て、花が咲くのを楽しみにしてたんだ」 「そ、そうか。昼休みは、あんまり来ないから」 「今日は珍しく?」 「うん」
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