二十二

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二十二

 昨夜からユキナと連絡が取れなくなっていた。いつもなら、収録中でなければラインのメッセージがすぐに既読になり、わけのわからないスタンプが連続で送られてくる。未読は収録中の印で、基本的にユキナが既読スルーすることはなかった。ショウも既読スルーはしない。ただ返事はシンプルに「アホ」「バカ」など一言で返すことが多かった。会えない時間をラインが埋めてくれるとは思わないが、言葉を交換することは心を通わせることだとショウは思っている。ユキナに送ったメッセージが未読のままになっている。今日は確かオフだったはずだ。胸騒ぎがした。芸能プロダクション社長殺人事件の第一発見者である、ヨシザワエリナとも連絡が取れなくなっている。二人が高校の同級生であったことはユキナから聞いて知っていた。その同級生がクサナギヒカルというAV女優であったことに、ユキナは少なからずショックを受けていたはずだ。アイツの性格なら、本人に直接会って問いただす可能性が高い。そしてもうひとつ、ショウの中に不安の種が芽生えていた。それは中国マフィアの存在。今回の事件に直接絡んでいるとは思えなかったが、ショウは上海で「六月の雨」趙建宏を捕り逃がしている。奴らの報復が無いとは言えない。現にハダケンゴへの報復として、恋人だったニッタジュンコが殺害されている。ショウが帰国後、ユキナとの接触を控えた理由でもある。ユキナが有名人となり、世間からの注目を集めていたことは好都合だった。それだけユキナには世間の眼があり、簡単に手出しできないはずだった。もし奴らの手に落ちているとすれば・・・・・・ショウは首を横に振った。  翌日になってもユキナからの連絡は無かった。何らかの事件に巻き込まれていることは確実だった。ショウはユキナのマネージャーであるケイコに連絡を入れた。所属するプロダクションでも内密だが、にわかに騒がしくなっていた。とりあえず体調不良ということで収録をキャンセルするということだったが、警察に相談するまで、しばらく様子を見るという。大きく報道されてしまっては、今後のスケジュールにも影響が出る。事務所からも、この件に関しては口外しないよう懇願された。ショウは内心唾を吐いたが承知した。下手に公開捜査になれば、更に身の危険が高まることは、過去の新宿の誘拐殺人事件からもわかっていた。犯人の出方を待つしかない。ショウ自らが単独捜査することを伝え、三日経っても捜し出せなければ、警察に相談することを約束させた。黄昏の街にアウディが飛び出して行く。陽が陰り、ネオンが瞬く都会の闇に、じわじわと落ちて行くような気持ちだった。アウディの赤いインパネが、この時ばかりは心の震えを助長した。何の音も耳に入らなかった。
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