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リビングの扉をそっと開けスマホを向ける。
カシャ!カシャ!
「望美っ!!!なっ、なんで!!!」
「ああ、一日早く仕事が終わったの。あなたを驚かそうと思って連絡しなかったんだけど、私の方が驚かされたわ」
身体を寄せ合う2人に満面の笑みをスマホ越しに向ける。
「こっ、これは違うんだ!彼女のっ!彼女が相談があるっていうからっ!」
「そう、相談ね」
女の方をチラリと見る。
彼の腕の中に収まりブルブルと震えている姿が私でも可愛らしく映る。
「そっ、そうなんだっ、ねっ、相談があったんだよねっ」
両肩に手を置き女の身体を離しながら彼は必死に話を合わせる様に目配せを送っていた。
「・・・・酷い、私・・・・」
今にも泣きだしそうな可愛らしい仕草、私には到底できない仕草だ。
「ちょっ、何言ってんのっ!相談があったんでしょっ!」
彼が声を荒げるとしくしくと悲しそうに涙を流し始めた。
「おっ!ちょっ、困るよっ!望美の前で何泣いてんのっ!やめろよっ!誤解されるだろっ!」
突き放す様な彼の態度と言葉に女は崩れ落ちる様に泣き出した。
「のっ、望美っ!違うんだっ!彼女とは何でもないんだっ!分ってくれるよなっ!俺が望美を望美だけを愛してるってこと」
彼の言葉に女はわんわんと声を上げて泣き出した。
「おいっ!やめろよっ!」
彼は女の両肩を強く握るとゆさゆさと揺さぶりをかける。
「はぁ、ねぇ、これ聞いて」
私は録音された少し前の2人の会話を再生した。
彼の顔から見る見る血の気が引いていく。
「やっ!ちがっ、違うって!望美っ、俺っ、誘惑されたんだっ!この女にっ!この先も付き合いを続けないと望美に全てを話すって脅されてっ!で、仕方なくっ!」
「ふうん、で、この小瓶の香水を毎日つけた私が一年後に死ぬのを待つわけね。誘惑されたその人と」
チェストの上に置かれた小瓶をハンカチで包み取り上げた。
「そっ、それはっ、いや、違うっ!それもこいつから聞いたんだ。跡がつかない毒薬があるって、だから俺っ!あっ!」
「はい、今の言葉も録音したから」
私はなぜこんな男性と一緒になろうと思ったのだろう。この男性のどこに惹かれたのだろう。
こみ上げてきたのは泣き崩れる女に対しての怒りや妬みや恨みではなく、見る目のない自分自身への憤りと情けなさだった。
「望美・・・・俺・・・・」
「もう、いいわよ。二時間あげるわ。手持ちの荷物だけ持って出て行って」
「えっ!望美っ!嫌だっ、俺、望美から離れたら望美がいなくちゃ生きていけない」
「大丈夫よ。さっき、言ってたじゃない。一年後に私がいなくなった後、この子と一緒になるんでしょ。一年早まっただけじゃない。じゃ、私はこの後の手続きに入るから」
私は玄関へ向かった。
彼がドタドタと後から追いかけてきたがこれ以上話す事はないと振り払い私はマンションを後にした。
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