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絹糸は紅花で染められ、丹精を込めて織られていった。
そして薄ピンクと薄紫の混じった、美しい反物が生まれた。それは撞木にかけられ、あちこちの呉服店を巡った。
「こちらは紅花紬といいまして——」
主人は反物を、得意顔で語った。
「素敵な色ね」
「あら可愛らしい」
「本物の紅花染なの? どうりでお値段が良い訳だわ」
その反物を、誰もが褒めた。肩に当て、鏡越しの顔写りに、客たちは喜んだ。
しかし買われることはなかった。
褒め言葉と塵は、同じ速度で積もっていった。
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