紅花紬の物語

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着物は団地サイズの6畳間に広げられた。小柄な彼女の身体に合わせて仕立てられた着物でも、部屋をいっぱいにした。 怒りながら泣く娘と、黙ったままのその娘。着物はただ、時間が過ぎるのを待った。 着物は娘には小さかったが、孫娘にはまだ大きかった。 それでも、嬉しかった。やっと袖を通してもらったのだから。 孫は着物を羽織ったまま狭い部屋をぐるぐると回り、なんども鏡台の前に立った。 「あたし、この色とっても好き。大きくなったらたくさん着るわ」 孫娘は呟くように言った。娘は晴れた目に、再びティッシュを当てた。
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