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原田幸助は居間でお茶を飲んでいた。
緑茶の入った湯呑みをときどき傾けては、テレビの中ので報じられる悲惨なニュースに目をやる。
毎日午後から放送しているいつもの情報番組では、都心で起こった連続強盗殺人事件について、先ほどから何度も報道していた。
「まったく恐ろしい世の中になったもんだな……」
幸助は空になった湯呑みを、ちゃぶ台にどんと音を立てて置いた。
「おい、ばあさんや、ばあさん。お代わりをくれないか?」
キッチンのほうに声をかけてみる。しかし、妻からの返事はないようだ。
幸助たちは去年、やっと金婚式を迎えた。
八十を過ぎても、喧嘩はときどきする程度で、特別に仲がいいというほどではないが、そこまで悪くもない。
それにしても妻の良子はどこにいったのかな?
いつもなら良子は居間へとやってきて「はいはい、どうしました?」と返事を返してくれるのだが、今日は珍しく返答がない。
「あれ? どこへ行ったんだろう。トイレかな?」
立ち上がってトイレを覗いてみたが、そこに良子の姿はない。
ふと不安が湧き上がってくる。
最近、妻の様子がおかしいと感じていた。
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