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deMise
人間が残酷だなって思うとき…それは弱いものを見るときだ。あからさまに弱いものを見るとき、たいていのやつは哀れに思ったり同情したりなんかしない。ただイラっとするだけだ。あんなふうになりたくない。あんなみじめな姿は嫌だ。そう思うんだ。だからぼくはどんな残酷なこともできる。だって、あんなに震えて泣いているなんて、ぼくにはイライラするだけだもの。
「聞こえなかった?下着を見せてって」
「ゆ…ゆるして…お願いよ…」
許す?なにを?なんで?ぼくはますますイライラした。チンピラまで粉々に殺せるぼくが、なんでイライラするきみを許さなきゃなんないんだ?
もうそれはきっと常軌を逸していたんだと思う。ぼくがぼくではなくなった。ぼくはこのときたしかに自分がAIになったような気がしたんだ。AIはきっと、ぼくらをそんなふうに見ていたと思った。それは強い確信とともに。
「北川遠矢くん!そこまでにしなさい。あんたのことはすべて調べがついている。もうこれ以上罪を重ねないで!」
女の人の声だ。それも凛とした、とても強い声だった。おそるおそるぼくが振り返ると、ドアのところに若い女性と数人の警察官が見えた。だれにも開けられないドアが開いていた。あわててスマホを見たけれど、もうセラムはそこにいなかった。
「あなたは…」
「わたしは家庭裁判所の調査官、添田涼子。あんたを父親殺害の容疑で保護します!」
こうしてぼくは捕まった。警察で調べられたあと、家庭裁判所というところに送致された。未成年のぼくの行く末は、どうやら少年刑務所と言うわけだ。こんなはずじゃなかったのに…ただ、立花さんと話がしたかっただけなのに。どうしてこんなことになっちゃったんだろう…。
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