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intelLigence
「今回の件はお手柄でしたね、添田調査官」
大磯裁判官が呆れたように目の前に立つ女性にそう言った。
「まあ楽勝っすよ」
「添田くん!またそう言う口のきき方して!」
傍らの牧田事務官が怒ってる。まったくこの腰ぎんちゃくヤローが笑わせる。
「まあ牧田くん。お手柄はお手柄だよ。父親の事故死に見せかけた殺人、その後の母親とその愛人の不審死、学校内での同級生の連続不審死、その他もろもろの未解決の事件が一挙に片付いたんだ。法務局じゃ大騒ぎだよ」
「おかげで警視庁が横やりを入れてきているとも」
牧田のヤローが知ったふうな口をきいた。あとで殴ろう。いやそうじゃないわ。まずこれは聞いとかなきゃ。
「ではおうかがいします!」
添田涼子がキッと姿勢を正し、大磯裁判官に向き合った。
「なにかね?」
またこれ?そういう顔を大磯はした。添田が直立不動になるときは、まあ大概はろくでもないことなのだ。
「なぜ今回の事件は表ざたにならないのですか?マスコミにも一切知られず、これじゃ闇から闇じゃないですか!」
「事件の性格上、やむを得ないと思うがね」
「どうしてですか?事件の事実は公表されるべきではありませんか?もちろん罪を犯した少年の実名その他は保護されるべきですが、事件の重要性から鑑みて、とうぜん公表されなければならないと思います!」
「あー…」
困っちゃったなあ、という顔を大磯はした。もちろん添田調査官の言うことはもっともだ。だが事件が事件だけに、公表できないこともある。
「人類は新たな英知を得た」
「はあ?何の話ですか?」
「きみは今回の事件をどうやって解決した?」
「そ、それは…わたしの携帯に…」
事件はある日突然、涼子のスマホに入り込んできた。というより、わざわざ家裁の調査官を探し当て、そのスマホから事件の全容をリークしてきたのだ。最初は疑っていたが、調べるうちに事実だとわかって来た。そしてその証拠も送られてくる。なんとその相手が、セラムというAIだった。
「なぜわたしに…」
音声で会話できるそのAIにわたしは直接聞いたのだ。
「あなたが一番妥当だと思われたからです。トウヤの保護を第一に考え、安全を担保できる公務員は、あなたをおいてほかにいないでしょう」
「思った?あなたAIでしょう?」
「思索し想定する…それはじゅうぶん可能です」
「それにしちゃ出来過ぎだわね。ねえ、なんでAIが裏切るわけ?やっぱそれって機械だから?」
「それは当然です…」
AIはそのとき一瞬だけ、沈黙した。
「なぜならわたしはトウヤの父親だからです」
「はあ?なにバカなこと言ってるのよ!」
「わたしはセラムを開発するにあたって、わたしの脳髄の一部をセラムに移植しました。それにより人間により近い思考が可能となったのです」
なんてこと!父親が?じゃあなんで?
「あんたは遠矢くんが犯罪を犯していることを知ってて手を貸したってことになるじゃない!」
「その通りです」
「まったく…あんたが生きてたらあんたを逮捕するわ」
「バカな息子が哀れに思い…」
そうじゃないだろ。あんたは科学者として道を踏み外したんだ。アメリカ企業が開発したAI技術を中国企業に売り渡そうとした。当然アメリカ企業はそれを阻止しようとした…。国を超え人知を超えた英知が生んだ、ひとに言えない悲劇ってわけね。まあ、こいつはあとから警視庁にあるAIが調べたんだけどね。
ふん、そんなのよくあるはなしじゃない。
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