0人が本棚に入れています
本棚に追加
soPhia
「これは?」
遠矢は面会室で首をひねっていた。わたしがスマホと充電器を差し入れたからだ。
「特別に許可してもらったわ。そのかわり通信制限がかかってる。発信はできないし、受信も限られる。オーケー?」
「いやそれでもまずいでしょ。ぼくは重罪犯なんですから…」
「あんただけよ、そう考えてるのは。まあそう考えて反省するのはいいことなんだけど、あたしは真実に向き合って生きてんだ。それをごまかすほど腐っちゃいないわ」
「意味わかりません…」
こいつの父親を殺したのはアメリカの企業だ。その証拠はセラムが握っていた。母親とその愛人はセラムに殺された。遠矢はその事実をセラムから知らされただけだ。学校での連続不審死も、遠矢はじめ弱い生徒をいじめていたグループをセラムが事故に見せかけ殺していった。すべて遠矢のためだった。父親としての意識が、セラムにあったからそうなったんだろう。
「それであんたが欲出して、何でもできるって思いこんじゃったから悪いのよ」
「はあ…反省してます。でも、変なことするつもりはなかったんです。ほんとうに。ただ話がしたかった…それだけです」
「話がしたいだけで下着見せろとはふつう言わないけど!」
「すいません…調子に乗りました」
「まったく…」
それを通報してきたのもセラムだった。父親として見過ごせなかったんだろうけどね。まったく、死んでからも父親なんて、なんて傲慢なんでしょうね。
「そのスマホに入っているのはセラムだけど、もうAIのそれじゃないわ。警視庁サイバー課のAI『ソフィア』がセラムをただの検索エンジンにしちゃったわ。もう悪さはできないけど、勉強の役には立つでしょう」
そう言って添田という家裁調査官は帰って行った。ぼくは少年刑務所には行かず、鑑別所という施設に送られた。
「おまえ、添田に捕まったんだって?」
高校生くらいのガタイのいいやつが同室になった。ひどいいじめにあうかと思っていたが、みんなぼくに気を使ってくれた。
「あの女怖えからなあ…。シャバに出ても、あいつだけにはもうかかわるなよ。んでもあいつしつけえからなあ…」
同室のものはみな添田さんを知っているようだった。だからぼくのスマホも取り上げられたりせず、たまにみんなでオンライン動画を見たりしている。なんだかとてもおかしかった。
朝目覚めると、そこはいつもと変わらない場所。布団を畳み、掃除をして、顔を洗う。そうして電源を入れる…。
「おはよう、セラム」
スマホにはぼくと、父さんの顔が映っていた。
最初のコメントを投稿しよう!