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華蓮のことを考えると同時にサウンドクリエイターの霧島和志さんのことを思い出す。
彼女にあの日、告白されたことを打ち明けなければ、私はまた交際を断っていたかもしれない。
私が告白されたことを話すと華蓮は“あたしは告白されてないよ!!”って鋭いツッコミをしてくれた。
そのことは置いておいて、それから親身になって話しを聞いてくれた華蓮には感謝しかなかったのだった。
それはそうと告白されることは今まで何度かあった。
学校では幼馴染の浩二や達也がいつも近くにいたから告白されることは稀だったが、ネットでは守ってくれる人もいなくて、個人で私は活動していたからよくあることだった。
時代は変わって直接会ったことがなくても交際することはよくあることだけど、私はそこまで恋愛に積極的ではなかった。
でも、共通の知り合いで華蓮が相談相手として見守ってくれるなら、一回り年上の相手だけど付き合ってみてもいいかなって思えた。
別れた今だから思うことかもしれないけど、きっかけは言ってしまえばそれ程度のものだった。
交際を始めて私と和志さんは月に二回は会うようにしていた。
片道一時間半近くかかる距離を往復して会っていた、私も何度か東京まで出向いた。
家族も、浩二や達也もそのことを知っていた。
みんなからすれば会ったことのない知らない相手だったから、応援してくれることはなかったけど、私はそれでも構わなかった。
でも、交際を始めて三か月目のある日、全てが崩れ去った。
「唯花には、本当は別に好きな相手がいるんじゃないか?」
彼のその言葉が終わりの始まりだった。
彼には私が彼のことを拒絶しているように映ったらしい。
三か月交際を続けてもキスはいつもたどたどしくて触れ合う程度でセックスをすることもなかった。
それをずっと見てきた彼は、私には別で好きな相手がいると解釈したようだった。
私はその言葉を聞いて反射的に浩二のことが頭に浮かんだ。
そういう自分を否定しようと弁解を続けたが、それでも私は彼のことを本能的にまだ全部受け入れられないことに変わりはなかった。
「こんなことなら、華蓮と付き合えばよかったな」
彼のその一言で言い争いは終わった。
その後に訪れた静寂は胃がもたれそうなほどの嫌悪感で溢れ、もう彼の吸うタバコの煙の副流煙を吸いたくなかった。
信じてきた赤い糸は簡単に解けてしまい、全てが瓦解し私たちはその日のうちに別れることになった。
ただ、別れた後、私の心を著しく穢す黒い澱みのようなものだけが残り、それを解消しようと私は浩二の元に帰りたいと思った。
家族のように、いや、家族以上に温かく包み込んでくれる浩二の元に。
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