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毒師が忙しくなるのは、むしろ宴が終わったあとだ。
宴のあいだも、毒味役として王の口に入るすべてのものをみずから味わい記録しているが、肝心なのは記録よりもその後の判断である。
自室に引きあげた王の体調を推しはかり、解毒剤の種類と量を決めることこそ、王の毒師の最大の責務となる。
「いつも思うが、よくそんな布越しに私を診られるな」
毒師に手を預けて脈をとらせながら、王が言った。
もともと、人生を謳歌する者特有の明るさと自信に満ちた青年王である。
そして今日はひときわ機嫌がよさそうだった。
「今夜は蒸し暑い。おまえも、帽子に手甲に長衣と厚着をした上に顔まで覆う必要もあるまい。取っていいのだぞ、〈5〉」
〈5〉、という数が、王の毒味役と解毒調合を担当する毒師の呼び名だった。
王のため、毒と解毒を研究する毒師は九人。
それぞれにこうして数が割りふられ、帽子から垂らして顔を隠す布に目のように入った模様の数で呼び名を示している。
「毒師の決まりにございます」
今回の宴席では新酒が出され、上々の出来だった。
少々量を過ごされたか――と思いながら、〈5〉は王から離れて解毒剤を準備した。
上機嫌な王は、なおもたわむれを言ってきた。
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