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早い。しかも呼吸も荒い。
〈5〉は控えていた近習に応援を頼み、と同時に王に水を飲ませ、その口に指をつっこんで無理やり吐かせた。
拷問と変わらない手荒な行為だが、毒をできうるかぎり早く胃から出すためにはこれ以外にない。
〈5〉は必死だった。
「――」
ひとしきり水を吐いて苦しげな王が、何ごとかつぶやいた。
その口もとにかすかな微笑を見た気がして、〈5〉は凍りついた。
他の毒師たちが駆けこんできた。
王は〈5〉の手を離れ、〈5〉は拘束された。
§ § §
日を待たず、〈5〉が閉じこめられた研究所の牢に、毒師が訪ねてきた。
処分が決まったのだろう。〈5〉は座り直し、毒師を迎えた。
訪ねてきた毒師の、目もとにひとつの模様が入った布に表情は描かれていない。
にもかかわらず、その布のむこうにどれほどの憎悪が浮かんでいるかは、はっきり伝わってきた。
「毒師の身でありながら陛下を苦しめ、毒師に唯一残される名誉である陛下の信頼を損なうとは……わが手で引き裂いてやりたいところだ」
「当然と思います」
〈5〉は静かに答えた。
故意だろうが事故だろうが、王を危険にさらしたことに変わりはない。
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