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だが、〈5〉の心は少しも揺るがなかった。
「かしこまりました」
〈5〉は静かに承諾した。
§ § §
毒師の装束を奪われ、髪を切られ、〈5〉は暗い護送車に放りこまれた。
〈5〉は鉄格子のついた小さな空気穴を見上げた。
あの夜の解毒剤の調合に不備がなかったことは、確信している。
そして王の部屋で見たもの――花瓶に飾られていた鈴なりのまだらの花の房を思い出す。
むかし〈5〉の家の井戸端にも咲いていたその花は、葉は薬になるが、花の蜜は毒となる。
あのとき彼はなにげにその花を取って吸おうとし、〈5〉はあわてて彼を止めた。
――いいことを教わった。忘れないでおく。
ふっくりと、いかにも甘い蜜をたくわえていそうなその花をまじまじと眺めてから、彼はそう言って笑いかけてくれた。
「……陛下は本当に、忘れずにいてくださったのですね」
〈5〉はつぶやき、ひとり微笑した。
王は毎夜の解毒剤を心底いやがっていた。
どうしてもやめさせたいと、ついにそう願うようになったのだろう。
だからあの夜、〈5〉の目を盗んで花の毒蜜を吸った。
毎夜の解毒剤が信用ならないという事件をみずから作りあげることで、やめさせようとした。
「どうか、願いがかないますよう」
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